アップルはシンプル

アメリカ型資本主義と聞けば「マネーゲーム」と連想する人は多いと思います。今回は、儲けに走って安っぽいモノづくりでジリ貧となっていく日本の情報機器メーカーと対照的に、モノづくりに徹底的にこだわって時価総額世界一となったアメリカ企業の話題です。

アップルと他のメーカーとの違いは、デザインに対する考え方に象徴的に現れています。多くのメーカーは、デザインは「付加価値(おまけ)」だと考えますが、アップルは、それを「本質」であると考えているようです。そのことを、ベストセラーとなっている「スティーブ・ジョブス」を読んで再発見しました。

その前に、

ParisLemonというサイトで面白い表現を見つけたので紹介。
上がアップル、下がサムソン。

Good (iPhone 3GS) — Better (iPhone 4) — Best (iPhone 4S).

アップルの製品ラインはシンプルです。一方のサムスンはというと、

You should get this one, it has a nicer screen than this one. But wait, it’s slower. Maybe get this other one. But this one has a keyboard. But I hate keyboards. So get this one, it runs Windows Phone. But maybe I should go Android. Oh, so get this one. Well, but I sort of like the clamshell. Then this is the one you want. But I hate the color. Okay, then this one. Well, I also kind of like this one, but it’s running an older version of Android. So then this is the one you want. The screen is too damn big. Okay, just close your eyes and pick one goddamnit.

アップル以外のメーカーは選択肢が多いといっても、「帯に短く襷に長し」で、結局、良いのが見あたらないという皮肉です。選択肢が多いことで満たされるのは「購入前の満足」だけです。

購入前の満足と、購入後の満足と、どちらが大切ですか?というわけ。

まあ、私は、Macがもっともアップルらしさを体現していると思っていて、iPhoneやiPadは、そこまでは評価しているわけではないんですが、でも、並べてみると、やっぱりアップルの製品だなあと思いますね。さて、

アップルは、企業規模からは信じられないほど、製品ラインが少ないです。デスクトップは、ProとiMacだけ。ノートブックは、ProとAirだけ。そして、何年もデザインは変わりません。内部(速度や容量や)に多くの選択肢があり高性能化していくだけです。他企業のトップでは、ありえないことですが、ジョブスは、全ての製品の細部のデザインまで、それこそ徹底的に考えていました。考え抜かれたデザインだから、必要が生じない限り変更しません。「デザインは消費されるもの」と考える他メーカーと異なります。

「すばらしいデザインとは、初めて触る瞬間でも直感的にその操作方法がわかり、それ以外の使用法こそ逆に思いつかないように見えるもの。一見デザインされていないようにさえ見えるデザイン」それがアップルのデザインを貫く哲学です。つまり、デザインは飾りではなく、本質なのです。

そして、その結果として「洗練を突き詰めるとシンプルになる」デザインになります。

機能や部品をたくさん増やしていくのは無難です。しかし、削っていくのはそうではありません。

そのためには、デザイナー、製品デベロッパー、エンジニア、製造チームが細かく協力する必要がありました。この部品は必要なのか?この部品ひとつで他の部品4個の機能までカバーできないか?など、スタート地点まで何度も何度も戻ったものです。( 「スティーブ・ジョブス」P96)

対象のあらゆる面を理解する、それがどう作られるのかも理解する。つまり製品の本質を深く理解しなければ、不可欠ではない部分を削ることはできません(同 P95)

私が、Macに対して愛着を感じているのに対して、(ごちゃごちゃと、一度も使うことがなさそうな外部端子が並んでいたり、ソフトの統一性がなくメニューの袋小路に入り込んで行ったり来たりを繰り返す)他のパソコンに対してそれを感じることができないのは、そういうことなのだと思います。

ジョブスは、マイクロソフトのビルゲイツについては、次のように語っています。

ビルは自分を”製品タイプ”の人間に見せたがったけど、本当のところはそんなタイプじゃなかった。彼はビジネスマンなんだ。彼にとっては、すごい製品を作るよりビジネスで勝つほうが大事だった。世界一の金持ちになったし、それが目的だったなら達成できたわけだ。(略)

マイクロソフトのDNAに人間性やリベラルアーツはあったためしがない。マックを見ても、それを上手にコピーできなかった。本質がわからなかったんだ。(同 P426)

別に、Windowsだけのことではなく、多くの情報機器がそのようです。箱を開けた途端に、分厚いマニュアルが出てきて、それを何度も読み返さなければ使えないような情報機器に対して、愛着を持つことができるでしょうか?私は、拒絶されたような気がして疎外感を感じます。

一般的な情報機器のデジタルな「よそよそしさ」とは違って、アップルにはアナログな匂いを感じます。

シンプルなものが良いとなぜ感じるのでしょうか?我々は、物理的なモノに対し、それが自分たちの支配下にあると感じる必要があるからです。複雑さを整理し、秩序をもたらせば、人を尊重する製品にできます。(同P 95)

人間が情報機器を理解しようと努力しなければならないのではなく、情報機器はパートナーなのですから、そちらから人間を理解してもらいたいのです。技術の進歩はそのためであり、複雑に複雑さを加えるためではないはずです。

さて、アップルのデザイナーであるジョナサン・アイヴは、製品の筐体を薄く強くするために、日本刀の鍛造工程を学んだと伝えられています。

神聖な工芸と見なされる日本刀の製造過程は、日本人でも目のあたりにすることは稀で、ましてや西洋人であるアイブがそうそう許されるものではなかった。しかし、根気よく度重なる交渉を重ね、ようやく機会を許されたアイブが目にしたものは驚くべきものだった。

数週間かけて作られる丁寧な作業は、(目視で鋼の熱がより判断しやすいように)夜間にのみ人の手で行われ、幾重にも折り重ねられた鋼は、外側は固く内側は柔らかい。仕上げまでに何度も丹念に磨かれ、鏡のような光沢をもつようになる。そうして恐ろしいほどに薄く鋭いが、西洋で作られるどんな刀よりも欠けにくい日本刀が完成するのだ。

この長い歴史により辿り着いた必然なるデザインと徹底的に削ぎ落とされた生産プロセスこそ、アイブが直接みたかった工程だ。iPodの背面の鏡のような美しい輝きそして剃刀のようなエッジをもつiPadが、その日本での体験が結実した姿だといわれる。(「Wired」から)

また、デザインマガジンcore77へのインタビューには、次のように答えています。

The best design explicitly acknowledges that you cannot disconnect the form from the material–the material informs the form…. It is the polar opposite of working virtually in CAD to create an arbitrary form that you then render as a particular material, annotating a part and saying ‘that’s wood’ and so on. Because when an object’s materials, the materials’ processes and the form are all perfectly aligned, that object has a very real resonance on lots of levels. People recognize that object as authentic and real in a very particular way.

素材の特性を理解して始めて、最高のデザイン(形)ができる。素材、加工、形が一体になって創られたものだけが、特別で、信頼すべき本物だ、とユーザーが思えるものだ。そういう意味だと思います。

ジョブスが京都を愛していたことは、前著に記されていますが、日本刀の話といい、千利休の一輪の朝顔を彷彿とさせる美意識といい、アップルの製品は日本人のモノづくりの心から多くを学んでいるようです。機能性とデザイン性は、相反するものなのではないと思います。機能を徹底的に突き詰めれば、洗練されたシンプルなデザインになるのです。

さて、Macbookのアルミの手触り。この、削り出し加工によるユニボディの製品は歴代のMacの中でも、最高の出来ではないかと思います。樹脂素材に金属風の銀色塗料を塗って、遠目に似せているだけの某メーカーのパソコンとは、歴然の差です。拙稿「一枚のアルミ板から」も、どうぞ。

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カテゴリー: 電脳してみた!

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