あまちゃんの光と影

連続テレビ小説「あまちゃん」が終わってしまいました。この半年、一日はあまちゃんを観ることで始まっていたので、心にぽっかり穴が開いてしまいました(笑)。何か書くことで、穴を埋めようと(爆)、ちょっとだけ書いてみようと思います。
アキちゃんは、よく、「影武者」を「落ち武者」と、何度も間違えます。笑い飛ばすのは簡単ですが、よくよく考えてみると、ひどい間違いです。「影武者」は、本人は不本意であったとしても、それなりに必要とされるものです。影武者は本人の近くにいるものです。しかし、「落ち武者」というのは、勝者と敗者があり「夢破れて、いさぎよく散るわけでもなく、こそこそ逃げて、僻地で閉じこもる」というみっともないものなのです。また、「落ち武者」には「ほとんど不可能に近いけれど、かすかな望みとして再起を図りたい」というニュアンスもあります。残酷なことに、若いころの春子の心情、鈴鹿ひろ美との関係は、このとおり。アキが、しつこいぐらいに言い間違えるのは、間近で見ている春子の心情は、それこそ「落ち武者」だからなのではないでしょうか。

ドラマの中で影武者を初めて意識するのは、アキがウニをとることができず、先輩海女あんべちゃんが影武者となって採ってくれた時です。

春子さんは学園のマドンナで、私なんか、校庭の片隅でひっそりと干からびてるセミの死骸ですもの。

春子さんは学園のマドンナで。 私なんか、給食の スパゲティ・ミートソースの中に 迷い込んだ輪ゴムですもの。

光と影。若・春子が光で、あんべちゃんは常に影。鈴鹿ひろ美と若・春子の「光と影」の関係の向こうに、若・春子とあんべちゃんの「光と影」の関係があったのです。

子どもたちが「アキちゃんが採ってくれた」と喜ぶ前で、「採ったのはあんべちゃんだ」とアキは伝えます。影であることを運命として受け入れていたあんべちゃんにスポットライトがあたった瞬間です。このことが、ドラマの先行きを予感めいたものを与えます。

また、アキ自身も、東京では、有馬めぐ(センター)の影武者(シャドウ)となります。有馬めぐは、シャドウの存在意義さえ否定します。奈落から自力で這い上がらなければ、なりません。このことも、ドラマの先行きを予感めいたものを与えます。

その後、デビュー曲がヒットしたGMTと、脱退したアキは、明暗分かれます。しかし、映画のオーディションでは、明暗が逆転します。

このドラマでは、光と影を消滅させるという安っぽい解決をとるのではなく、光と影の存在を冷酷に認めたまま、登場人物それぞれが、自ら解決を目指していきます。夢も持たずに漫然と暮らしているだけなら、こういう苦悩に合うことはありません、夢があり、そこを目指すから、そこへ至る過程で、光があたったり影になったり冷酷な現実にぶつかり悩むのです。

さて、話は戻り、25年前の春子の姿は、現代のユイちゃんと相似形です。可愛くて素質は十分なのに、何故か、運に見放されてアイドルへの道が閉ざされてしまいます。

「歌っているのは私なのに、スポットライトが当たっているのは鈴鹿ひろ美」という若・春子のやりきれない思いは、自分(ユイちゃん)に付き合っただけなのに運命のいたずらで一人だけ東京に行き、アイドルになってしまったアキちゃんに対するユイちゃんの気持ち「本当なら私が、あの場所にいるはず」と重なります。

一方、スポットライトがあたってきた鈴鹿ひろ美の相似形は、アキちゃんです。ひろ美は、何故、アキちゃんに親身にするのかという問いに、「私の若い頃に似ているから」と答えます。それはおそらく、天性のもの、種市先輩の言葉を借りれば、「太陽と月」の太陽。

ドラマでは、節目となるシーンでは、アキと、25年前の(同年代の)春子を対比して描かれます。

25年前も今も、同じように、逃げるように、こそこそと北三陸から東京に向かおうとしたのに、アキは偶然も重なって、結局は故郷の人たちに盛大に見送られて東京へ旅立ちます。光と影。同じように、夏ぱっぱに大漁旗で見送られていたのに、別れをすることができたアキと、運悪くできなかった春子。偶然のいたずらの結果、いつも光に見放される春子、光が当たることになるアキ。

鈴鹿ひろ美が映画「潮騒のメモリー」で主演デビューしたように、アキちゃんも同じ映画で主演になります。光があたる道を歩む、鈴鹿ひろ美、そして、アキ。

そこまで、ドラマでは、影武者たる若・春子の整理できない思いを中心に進みます。また、25年前の若・春子の苦悩と並行して、ユイちゃんの苦悩ばかりが描かれます。しかし、アキが鈴鹿ひろ美と同じ地点に立った頃を契機に、というか、春子が鈴鹿ひろ美に思いをぶちまけて気持ちが整理できたことを契機に、

光のほうに立っていた鈴鹿ひろ美やアキちゃんのほうの苦悩がクローズアップされていきます。影の方にだけではなく、光の当たるほうにも苦悩はあったのです。いや、春子が悶々としている間は、スポットライトがあたってきたひろ美にしてみれば、苦悩する姿を見せるわけにはいかなかったのでしょう。

鈴鹿ひろ美も苦悩していたように、傍目にはアイドルへの階段を楽しく登り続けていたように見えるアキちゃんも「何故、ユイちゃんではなくオラが」と苦悩していました。もともと東京になんか行きたくなかったのに、ユイちゃんが強く誘うから…アキは、東京に来た初日から北三陸に帰りたくて仕方ありませんでした。でも、ユイちゃんが上京してくるまではなんとしても頑張らなければ、ユイちゃんが東京にやってくるのを待ち続けます。アキはユイのために頑張っているのに、ユイはアキを妬ましく思っているという、ねじれた思い。「もう東京には行かない」とユイちゃんから宣告されたときに、もう東京にとどまることはできないと思い、アキは、ユイのもと北三陸に戻ります。

地元で待っていたのは、優しすぎるユイちゃん。

【ユイ】 凄いよ、アキちゃん。夢かなえてるよ。
【アキ】 いやいや・・・
【ユイ】 私、アキちゃんと友達でよかったあ。
【アキ】 え?
【ユイ】 これからも仲良くしてね。
【ナレーション】重っ・・・。何かわかんないけど、重っ!
嬉しさよりも、重圧感に、息が詰まりそうなアキでした。

夢を諦めた人間は、悩むこともなく、悩ませることもなく、無性に優しいのです。けれども、その優しさは、抜け殻です。

でも、ユイちゃんは夢を諦めていませんでした。

【ナレーション】腹黒ユイちゃん、久々に復活です。

【ユイ】 ずば抜けて可愛い子もいないし、
ずば抜けて歌がうまい子もいないし。
アイドルとしては限りなくCに近いB級?
地元に帰ろう、っていうか、
お前らが田舎に帰れ、って感じ。

【ナレーション】毒舌のアクセル全開、フルスロットルです。

【アキ】 ちょっと待ってけろ。
一応みんな、おらの友達で・・・。
【ユイ】 友達? あ~そうだよね、ゴメンゴメン・・・。
いやでもさ、友達だからって、いきなり押しかけてきて大騒ぎして、素人レベルの歌聴かされて、興味ない人間にとってはこの上なく迷惑だし。リーダー性格最悪だしぃ!
アキちゃんGMTだったら、余裕でセンター取れるよ。
【水口】 じゃあ、ユイちゃんだったら?
【ユイ】 私は・・・。私はいいよ。もうそういうの。
でもさ、あんなんでアイドルとかいってチヤホヤされるんだったら、潮騒のメモリ―ズの方がよっぽど可能性あると思うな。
【アキ】 じゃあ、やろうよ!
【ユイ】 えっ? やんないけど。
・・・やんないよ。お店あるし。でもさ・・・。
【アキ】 何だよ、さっきがら! でもさ、でもさって。
やりたいの? やりたくないの?
【ユイ】 やりたいよ! ・・・やんないよ。やりたいよ!
でもやんないよ。
【水口】 やりなよ!
【ユイ】 やんない。
【夏ぱっぱ】 やればいいのに。
【ユイ】 やんないよ。
【ヒロシ】 やれよ!
【ユイ】 やるよ!
【勉】 やった~!
【夏ぱっぱ】 ハハハハッ。
【アキ】 マジで?
【ヒロシ】  え?
【水口】 えっ、何?
【ヒロシ】 (ユイから渡されたノートに)潮騒のメモリ―ズ現象? 何これ?
【ユイ】 再結成から、お座敷列車までのストーリーをまとめたの。読んどいて。
【アキ】 やる気満々じゃん!
【ユイ】 もう失敗は許されないからね! 前回の失敗を踏まえてしっかり戦略練らないと。
水口さん!
【水口】 はい。
【ユイ】 わんこチャンネルの池田Dに連絡しといて。
あとお兄ちゃん、観光協会のホームページで、再結成の情報流して。
【ヒロシ】 はい。
【ユイ】 ゴメン! 私・・・ウソついてた。全然あきらめきれてないし、全然吹っ切れてないし!
物わかりいいフリしてたけど・・・無理! 何かGMTの歌聴いてたらイライラしちゃって。

あっ、もちろん私に。なんか、同い年なのに何やってんの私って。
いつも面倒くさくてゴメンね。
【アキ】 おかえり。
【ユイ】 え?
【アキ】 面倒くさいユイちゃん、おかえり。
【ユイ】 アハハッ。ただいま!

競争の中で、人は冷酷になり、切磋琢磨し、成長し、強い優しさを手に入れます。それは、傷口を舐め合ったり、傷付き合わないようにしたり、成長を放棄した薄っぺらい優しさとは違う。優しいユイちゃんではなく、腹黒いユイちゃん、それこそ、夢を追い求め続けるユイちゃんなのです。「性格が悪くなった」とか、そういうことではない。人は自分の前に大きな課題ができると他者に対して配慮する余裕をなくしてしまいます。しかし、それは、一回り大きくなるための蛹の時期なのです。

それは、鈴鹿ひろ美も春子も、同じ。厳しい、光と影の世界を自ら選び飛び込んだものにしかわからない。単に慰めの言葉を掛けあったって解決できません。

そして、最終回が近づくに従って、鈴鹿ひろ美の「整理できない思い」を解決したいという強い気持ちが強くなっていきます。最終週はまるで、アキは脇役で、鈴鹿ひろ美が主役であったかのように、存在感がありました。

鈴鹿ひろ美が、潮騒のメロディーを歌うシーンは圧巻でしたが、鈴鹿ひろ美は、果たして音痴だったのか、最初から上手だったのか、本人にしかわかりません。しかし、春子と太巻は、悟るのです。

【春子】 わざとだったりして。
【太巻】 わざと。え? わざとって何?わざとで上手くは歌えないでしょう。
【春子】 今日じゃなくて、今までがよ。
【太巻】 え?
【太巻】 わざと・・・下手に? どうして?
【春子】 言ってましたよね、確か。歌手志望じゃなかったって。
【春子】 でも、駆け出しのアイドルだったから断れなくて。
【太巻】 仕方なく、わざと、下手に。最初から!?
【春子】 な訳ないよね! やだやだ、知りたくない!ていうか、考えたくない!
【太巻】 おいおいおいおい。
【春子】 でも・・・万が一そうだとしたら?
【春子】 ・・・プロだわ!

私も、春子の説に同意です。鈴鹿ひろ美は、実生活でも演技しつづけること、女優を貫いたのではないでしょうか。

鈴鹿ひろ美は人前で歌うのが嫌で、でも「でも、駆け出しのアイドルだったから断れなくて。」わざと音痴を演じたのかもしれません。軽い気持ちで嘘をついたのかもしれません。ところが驚いたことに、荒巻や大人たちは、影武者を用意してしまったのです。おそらくひろ美にとって、予想外だったのではないでしょうか。そうなると、いまさら、「音痴は演技です」とは言えません。影武者である(そのときは誰だかわからない)少女のことを思うと、「ちょっと嘘をついただけ」とはいえません。そんなことをすれば、影武者少女は、お払い箱になってしまいます。嘘はつき続けなければならず、音痴で在り続けなければならない。そして、25年がたち、アキの母親として春子がひろ美の前に登場し、彼女が未だに、ひろ美の影武者だった過去の気持ちを精算できずにいたことを知るとなおさら「あれは嘘でした」とはいえない、しかし、このまま「嘘をつき続ける」こともできない。

もし、太巻からマイクを受け取った現・春子が、そのまま影武者として歌っていたらどうなっていたでしょうか。鈴鹿ひろ美の「整理できない思い」は、解決されることはなかったのです。そう考えると、太巻が現・春子にマイクを渡そうとしたときに、突然に、若・春子が、間に入った意味がわかります。マイクを壊したことの重要性がよくわかります。潮騒のメモリーの歌詞に出てくる「早生まれのマーメイド」は鈴鹿ひろ美のこと(ドラマの中で早生まれであると言っている)、「三途の川のマーメイド」は、鈴鹿ひろ美の気持ちの、もやもやが気になって幽霊のように出没している早・春子のこと、というのがネット上の定説となっています。若・春子がマイクを壊すことによって、鈴鹿ひろ美は自分の声で、歌うことができたのです。25年の時を超えて、若・春子は、鈴鹿ひろ美に自分自身の声で歌わせるために、マイクを壊すために登場したのです。そして、若・春子は、もはや三途の川にとどまる必要もなく、現れなくなります。「三途の川のマーメイド」は「三代前からマーメイド」と、歌い代えられる…そういうことのようです。

そのことを目撃していたユイちゃんはアキに対して、問いかけます。

【ユイ】 アキちゃんはさ、どっちが辛かったと思う?
【アキ】 え? どっちが?
【ユイ】 鈴鹿さんと春子さん。
【アキ】 ああ、影武者問題が。
【ユイ】 私は鈴鹿さんの方が辛かったと思うんだよね。

これまでは、心の何処かでアキを妬ましく思っていたユイが、鈴鹿ひろ美の苦悩を通して、アキの思いを悟ったのです。このユイちゃんの言葉は、アキに向けて「ありがとう」と語られたようでもあり、このドラマの到達点ではなかったでしょうか。

春子もユイも、地元のマドンナ、つまり光があたっていることが似合う目立つ少女でした。地方の小さな世界で光を浴びていた少女が、挫折して影の立場になる、それは、よくあることです。でも、通常は、まわりの者は、どうしていいかわかりません。

このドラマの状況が、そういった他の多くの事例と異なっていたのは、アキの存在です。

アキは、もともとは目立たない地味な子。目立つ子の場合は、挫折するときも大げさに挫折します。でも、地味な子ははひっそりと挫折し、自分でひっそりと解決します。例えば、アキは、高2の冬に両親が離婚します。ドラマでは簡単にスルーされますが、傷ついていたはず。失恋という最大の壁も、お座敷列車に間に合わせるように自分の心に決着をつけます。母である春子のアイドルの夢を娘として実現し、ユイの夢を実現するために、行きたくもなかった東京に共に行こうとします。アキは、自分のしたいことをしているだけなのですが、結果として、春子やユイが壁を乗り越える力となります。

目の前にやりたいことがあるとき、悩んでいる時間がもったいない。アキには、そういう正直さがあります。また、地味っ子歴が長いので、挫折の自力解決法も知っています。

表面的に見ると、このドラマでは、春子の苦悩、ユイの苦悩、鈴鹿ひろ美の苦悩、そして解決が描かれ、まるで、アキは、周辺でうろうろしているだけかのようです。けれども、おそらく、本人も無自覚な、あまり描かれなかったアキの苦悩が、あったはずで、… いや、アキは苦悩する前に、自分の気持に正直に行動したのです。それが、彼女たちの苦悩を解決したのかなと思います。

(面倒くさい)ユイは、そんな自分に正直なアキが羨ましくて仕方がなかったはず。そうなんです。視聴者も含めてみんな、本当は自分の気持に正直になりたくてウズウズしているのに、面倒くさい。だから、テレビを見ている人はみんな、アキが羨ましくて仕方ないんです。

トンネルでの被災経験が忘れられないユイちゃんは、最終話でアキちゃんを誘って、自分から暗いトンネルの中に飛び込んでいきます。そこを走り抜けて、海まで走り続けたところで、ドラマは終わります。最後の一分間が、この半年のドラマを凝縮していたようでした。

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