元・児童相談所ワーカが観た「明日、ママがいない」

日本テレビのドラマ「明日、ママがいない」をめぐって、全国児童養護施設協議会などが放送中止要請をするなど、注目を浴びています。私はかつて、児童相談所のケースワーカーとして、養護児童や、その家庭、養護施設とがっぷりと関わってきました。そうした観点から、感想を書いてみようと思います。

まず、施設長が子供をペット呼ばわりしたり、里親のプロフィールファイルをを子どもたちに見せたり、そういうことは、まず、ありえないだろうということは指摘しておきます。それ以外にも、ありえないというシーンは多いです。ただ、そういった、今、注目を浴びている刺激的な表現は、あまり本質的なことではないと思います。そういう手続仕組み云々の部分は、事情通の関係者だから、「ここも違う、あそこも違う」と気になってしまうだけで、一般視聴者にとっては記憶にも残らずスルーしてしまうようなことにすぎないと思います。そういう細かい、一般視聴者は誰も気にもとめないことを、指摘して「だからダメなんだ」と、物知り顔で語る識者もいますが、それは違うでしょう?

過剰な表現は、しょせん、ドラマ上の演出に過ぎません。
そんなことを言えば、半沢直樹が、取締役会で乗務を罵倒する演説をするなんて、もっとありえません。ほぼ全てのテレビドラマに、それは当てはまります。やり過ぎかどうかは置いといて、それは興味を引くための演出なのです。

もっと、大切なのは、養護施設の子どもたちがどのように描かれているかです。
もし、ことさら性悪に描かれてでもいたら、私も放送中止を支持するかもしれません。
しかし、実際にドラマに出てくる子どもたちは、逆境の中で明るくて、たくましくて、とても魅力的です。そして、仲が良い。
ほとんどの視聴者は、このドラマを観て、子どもたちを応援したいと思いはしても、いじめようという気持ちにはならないでしょう。
実際の養護施設の子どもたちは、複雑な育ち方をしたこともあり、一般家庭で育った子供に比較すると、もっと人間関係が下手で、前向きでない子供が多いと思います。もちろん、そうでない子供もたくさんいますが。
このドラマに関しては、施設関係者は否定的、施設出身者は肯定的、というのも、そういうわけかもしれません。

もう一つ、このドラマで描かれている施設は、実際に施設とかけ離れているという指摘ですが、
「ほんとに、知って、言ってるの?」といいたい。
かなり、リアリティーがありますよ。
家庭がいろいろなように、学校がいろいろなように、施設もいろいろです。
このドラマの施設のような、養護施設は、実際にいくらでもあります(施設長が暴言を吐くかどうかは別にして)。
まあ、児童福祉の手続きに関する部分は、アバウトすぎて、実際は、こうではありません。けど、そんなことはドラマ上は重要ではないし、いかにもありがちという省略形、でも何ら問題がないと思います。
このドラマを観ていて「あっ、そうそう、そうなんだよ」とか「よく取材してるな」と、膝を打ったところも多々あります。
一方、この施設とは全然、似つかない施設もたくさんあります。

施設長については、人格者で尊敬するような施設長もいれば、
子供を金儲けの手段としか考えていないような施設長もいます。
一般の人には馴染みがないのでわかりにくければ、病院経営者をイメージすればいいのではないでしょうか。病院経営者には、高尚な理想に燃えた方もいれば、医療を金儲けとしか考えていない人もいる・・・これはイメージしやすいですよね。児童福祉の世界もおんなじです。いろいろです。
実際、何かと理由をつけて、子供を里親に出したがらない施設長も多いです。私から見れば、それは「子供のために」というより「経営のため」という感じがしていました。それを考えれば、ドラマの三上博史演じる施設長のほうがずっとましかもしれません。

「ポスト」というあだ名については刺激的すぎたかもしれません。
でも、実際の子どもの世界では、わりとあり得ることだとおもいますけどね。
子供は純真な一方で、残酷な存在です。
私も子供の頃、身体の欠陥の特徴を、あだ名にされていました。今から思えば、かなり残酷な仕打ちです。当時は、嫌だなあと傷ついてはいたものの、今思うほどには、深刻に受け止めていませんでした。

いろいろ書きましたが、

正直なところ、養護施設出身者って、世間的に、あまり良いイメージを持たれていないし、偏見も多いです。それは、無知や無関心からくるところが多いと思います。知ってもらうことのメリットは非常に大きいと思います。
私は、このドラマは、子どもたちを中心に、みんなに観てもらいたいと思います。

このドラマが注目されると、確かに、一時的に、傷つく子供が出てくるだろうと思います。それは、可哀想ですけど、かと言って、辛いことから隔離しておけばいいというものでもない。厳しいことを書きますが、精神的に強く育ててあげることが、一般家庭の子供以上に、大切だと思います。

このドラマを観てリストカットを試みた子供がいたそうです。「だから即刻中止せよ」と語る識者もいますが、私はむしろ、この程度のドラマでリストカットしてしまう精神面の弱さのほうが気になってしまいます。その子はこれから、社会に出ていきます。このドラマどころではない大きな試練がいくつも出てきます。「自分の身体を、命を大切にしなければならない」と教えなければならないのに、耐性を身につけさせなければならないのに、「リストカットすれば、私にすら全国放送さえ中止させることができる」という経験をさせてしまえば、どうなることでしょうか?

また、里親さんの中には、子供が思春期を迎えて、親子関係がデリケートな時期に、引っ掻き回すようなことは止めてほしい、という人もいると思います。それはすごくわかります。でも、だからといって放送中止要求とかに矛先を向けるのは違うと思います。

繰り返し書きますが、
このドラマで描かれている養護施設の子どもたちは、「美化しすぎ」と言えるほど、明るく、たくましく、そして可愛い、魅力的です。
そして、大人が悪く描かれることによって、それが引き立っているという面もあると思う。それは、テレビの演出。あるいはそれだけではなく、
デフォルメすることで、真実が伝わりやすくなります。
事実をそのまま伝えても真実が伝わりにくい時には、事実を正確に伝えるより真実を伝えることを優先するように。
子供の心理描写とか、かなりリアルな面も多いです。ドラマを観ていて、実際に私が関わった子供の顔を思い出しました。

テレビドラマに求められているのは、事実の正確性ではありません。真実をつたえることのほうが、ずっと大切です。

もっと、本質的なところから、考えてもらいたいと願います。

各論に続きます。

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